当ブログは血迷った管理人がマクロスF熱を吐き出すためにだけ作ったブログです。

とりあえず2008.7.7現在はMBS系アニメ『マクロスF』の感想のみを取り扱い。。。
でもなんだか感想というより70%妄想入ってます。
 そのうち迂闊に二次作品にも手を出すかもしれません。
 
ノーマルカプ推奨 アルト×シェリル&アルト×ランカ ならドッチーモvvv
つまりアルト萌ブログです。
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管理人関東圏在住のため、更新はほぼ土曜日以降(の、はず...
企画 はじめちゃおっかなーって思ってます。
ちょっと自分だけでも盛り上がりたいと思ってたりなんかするんだけど(笑


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TBに関しては、大変申し訳ないことながら
こちらからもご挨拶なしに飛ばさせていただいております。
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尚、いただきましたTBにはなるべくお返しいたしたいと思っておりますが、
やはり飛びにくいブログがあるようです。
あしからず、ご了承くださいませ。


2008年06月01日

子守歌  (追記しました)

とはいえ、「星のささやき」は相当気恥ずかしい歌詞だと思う(ゲフ;;;




なんというか。

 某早乙女少年の脱桜んぼを図りたかったんだが――行間は各位脳内補完してください。
 そして最終的に24話のあのシーンに続けばいいと思って書きました。



 いやだ―――、室内のシチュエーションは難しいっす。キャラが全然動かないあたり、苦労します。

書くだけ書いてみて思ったこと。



アルトのシェリル攻略は案外簡単なのかもしれないということです。

彼等は似すぎている。

で、21話あたりでシェリルに泣き附かれ、冷や汗をかくアルトのことは小説のほうに解説されていると思っていいんでしょうか?







えーとあと何か書いときたいと思ったんだけど忘れちゃったので、とりあえずこのまま上げます。またあとで書き足します。
うううう何だか知りのすわりが悪い気がする;;;(冷汗
  
*************************************************


 思 い 出 し た あはv


  今回の物語のちょっとしたポインツになっている和菓子ですが。

このアイテムは腐女子的にみるとっのっっそぃエ□いモノなんですよ(ほほほ


  まず、西王母(せいおうぼ)=桃
     梅=うめ(産め
     松重(まつがさね

     そして「花びら餅」です。


 花びら餅。。。白い求肥の内側がほんのり紅くて、そこに挟まっているごぼうです。
   (画像は各自で探してください/えー) 「花びら餅」でぐぐーvっと
 わたくしの茶道系腐女子友だち(なんやそれ!?)との会話の中では極めつけです。
        正しく男・性・向けな感じ?
  さぁさぁ腐った目力でどうぞ想像してください。
ほぉら、 "求肥=はまぐり"と"ごぼう=どぜう"に見えてくる から///

  










かちゃ と。

食卓で食器が重なる音がする。

「さ、ランカちゃん」

取り上げた茶卓の上に客用の湯呑を置いて、シェリルは自分の隣の席の前に置いた。

次の湯呑は、"ランカ"の隣に。

「ナナセも、どうぞ」

そして次の湯呑も同じように"ナナセ"の隣に置かれた「ルカ君」

湯呑を置くたび、シェリルは微笑んだ。

卓の周りに並べられたダイニングチェアの上に一つ一つ、愛らしいぬいぐるみが鎮座している。

ランカは正しく、手のひらサイズの「ランカ人形」である。まだ戦乱が熾烈になる前の、フロンティアのあちこちで見られた緑の髪の人形。

ランカ人形の隣には白い兎のぬいぐるみが。七色ニンジンを抱えて座っている。

その隣には金色の巻き毛の天使の人形。

次にシェリルは反対側の席に茶を置いた「クランも、これでいいかしら」

ちっちゃい子には苦くないかしらねぇなどと笑っている。白い毛並みにピンクのリボンのテディベアである。

そして"クラン"の隣には、"クラン"よりも一回り大きい茶色のテディベアが座っていた――"ミシェル"





ダイニングにいるシェリルを見とめ、声をかけようとしたアルトはドアの手前で固まった...





「アルトは今日は遅いって言ってたから、皆で先に頂いちゃいましょ」

と。

シェリルは"みんな"に向って微笑む。

普段の笑顔とは違う。いたずらっぽくて愛らしい。

舞台の上で、はたまたアルトの前で、いつも見せる勝ち気で高慢な笑みではない。

親しい人と楽しい時間を過ごす普通の17歳の少女の表情(かお)。

白いカーテンの向こうに青い空が映る。

部屋の四隅に飾られた花は多分、ファンからの贈り物だろう。

ピンクを基調にした壁紙に金色の髪の繊細な輝きが映え、シェリルは文字通り"妖精"のように見える。

テーブルの中央に置かれた白い箱の中を覗き込み、「どれがいい?」と"ランカ"や"ナナセ"に声を掛けた。

「ミシェルにはこれがいいかしらね?」

言いながら面(おもて)を傾け、シェリルはやっとそのドアのもとにアルトが佇んでいることに気づいた。



......

.........

...............「何で そんなとこに突っ立ってるのよっ!」



つんと唇を尖らせて、しかしその直後また口角をあげる「お帰り、アルト」

自信ありげに眼を細め、すっと顎を引きながらほんのわずか顔を背ける。

丁度上目遣いの眸が流されるような動きをする。

その仕種は酷く蠱惑的で、それこそアルト自身がいつか舞台で桜姫を演じた時に何度も師匠から駄目を受けた仕種そのものだった。

自分がやって鏡でその姿を見てもそれは「形」でしかないのに。

シェリルのこのガラス玉のように透き通った紺碧の眸だと何故これほどまでに扇情的に見えるのだろう?

ところがその実、その眸がほんの直前まで柔らかく揺れながらもっと身近に向けられていたことがアルトの胸に残照のように残っていて...

無防備で明け透けで、それでいてまだ他者に対してはそこはかとなく領域の許容を禁じ得ない。

何と言うのだろう?

いざとなったらプライベートさえも"売り"そうな『スーパースターシェリル・ノーム』の素顔が、本当は果敢ないくらいに頼りないものだということがアルトには僅かながら衝撃的なのだった。

そしてまた...それがもし、件の感染症の所為だとしたら――相反する気持ちが彼の胸をきゅっと締め付けて、苦しい。痛い。

ここは舞台じゃない、まして彼女を"銀河の妖精"と崇めるファンの集うステージなどではない。

このピンクの壁紙の中で、彼女はたった一人の生身の少女なのだ。



「アルト?」



どうかしたの? どこか具合でも?

シェリルは眉を寄せるとアルトに歩み寄る。

「顔色が悪いわよ?」

「え、あ...いや」アルトは気を取り直して、表情を和らげようとした「何してるんだ?」

問うとシェリルは意外や眼を輝かし、胸の前でパンと一つ手を打った「あのねっっ!」

そしてテーブル中央の白い箱を取り上げるとアルトに見せる「頂いたの!」

その表情、その動作は別の意味でアルトを"引か"せたが、シェリルはお構いなしである。

「すごく綺麗なのー」と彼女の携えてきた箱の中には鮮やかで雅やかな和菓子の数々。

はっきりいえば元は日本民族の名門早乙女家でも余程でなければ手にしないモノだ。

ますます"引く"アルトであるが...それでも箱を覗き込み、何度か見たことのある菓子が有ると検分した。

「ものすごく高価だぞ、これ」

ちょっと声が震えるあたり(笑

「そうなの? ファンの方が持ってきて下さったって」

目を丸くしたシェリルが言葉を続ける「エルモ社長が、アルトさんなら判るだろうって言ってたわ」

「そりゃま...」

とはいえ。

御曹司アルトでさえ、ほんの偶さか茶会に呼ばれて頂くくらいで...「そんな詳しいわけじゃないけどな」

歌舞伎と同じ。

歌舞伎を支えるために様々な職人が一緒にこの移民船に乗っている。

歌舞伎装束も、さまざまな道具の数々も。道具だって大小、本当にピンからキリまで必要なのだ。

同じように茶道をする家もある。そのための道具、そのための茶。

一つ一つのために職人がいて、それを支えるさらに素材を作る者たちが......

練り切り、羊羹、饅頭、落雁、飴、餅と、煎餅。

眺めるうちに先に聞かされた「ファン」というのが何ともアルトの耳に障ってきた。

まさかとは思うが「矢三郎兄さん、来た?」

「矢三郎さん? 会ってないけど?」

けれどそれ以外には考えられない。探りに来たのか? 

...来たんだなと思いつつ。

それでもこんな風に嬉しそうなシェリルの顔を見るのは悪くない。

「頂きましょうよ〜」

アルトもまた嬉しくなって頷いた。ところで...

彼の胸に、最初にこの部屋を見た時の軽い衝撃が蘇る。

無言のまま、アフタヌーン・ティー・パーティーが開かれているそのダイニングテーブルに目を落とした。

するとシェリルがえへへと舌を出し、「ごっこ遊びよ」と。

「せっかくきれいなお菓子を頂いたから、並べてみたくなっちゃって。

 それなら一人で広げるよりも〜」

なんてねと笑う。

「アルトはしなかった? 小さい頃」

普通の回答が来たので少し安堵しながら彼は応える「しなかったな。生活自体が"○○ごっこ"みたいだったし」

「じゃぁ私とおんなじね。

 私も、ずいぶんお偉い人たちとお茶会をしたことはあっても..."この席に学校の友達を"招待したの初めてよ」

朗らかに笑う彼女を見つめ、アルトは判らぬくらい鼻白んだ。

「あ〜、今ちょっと馬鹿にしたわね?」

シェリルはいつものように表情を作る、艶やかな唇をすぼめ、美しい眸を眇めた。

「違う」

アルトもまた膨れる。

真意が伝わらないことにムッとしながら、だからと言ってはっきりと内心の"心配"を口の端に乗せることへの躊躇いに苛立った。

眼を合わせない少年を目の当たりに、シェリルはまた表情を変えた。

アルトを見上げる眸がゆるりと潤む。

「もしかして」と、自身の指先を持ち上げると米神に当て「ちょっとオカシく見えたかな?」

クスッと表情を崩すと私らしくなかったか〜と言い、うふふと声を上げて笑った。

「そんなこと...」言ってないと言いたかったが…この女の前ではどこか無様な自分がいるように感じられる。明らかに役者として大根だと思う。

そしてまた苛立つ。もう隠してもムダだ。

するとシェリルはクルっと背を向けて同じ指先でちょんちょんと米神を突いた「まだ、大丈夫みたいよ」

そうしてもう一度ゆっくりと賑やかなテーブルを眺めた後、ランカ人形を抱き上げる。

次にナナセ。

二人を右手に抱えたまま「ルカ君」、天使を取り上げると「とーんでけ〜〜〜!」と続き間のリビングのソファーに投げた。

「片付けるわ。

 アルト、お茶淹れて」

顔を真っ直ぐ見ようとせずにダイニングを出ようとする彼女の空いた手を、アルトは咄嗟に掴んだ「待てよ、」

シェリルの手からランカを、ナナセを、引き取る「みんなで、お茶にしよう」

けれどシェリルは人形を離さずに首を小さく左右に振った「ううん、もういい」

「?」

「アルトが帰ってきてくれたし。

 なんだかやってみたら、会話が進まないの。

 脚本(ほん)がないとしゃべれないなんて情けないわね」

翻るブロンドを見るともなく見送りながら、アルトは自身の胸に失望にも似た空虚があることに気づいた。

なんだろう? 失望にも似た...アルトは首を傾げる。

もともとそこには何もなかったはずなのに。そこから何が失われたというのだろうか?

空虚に失望するというならなんとなく判る。

けれどアルトは反対に、そこがもともと空虚(うつほ)でなかったことに改めて突き当たったのだ。

ダイニングチェアに据えられた茶色のテディベアを見つめ、リビングでひっくり返っている天使を見つめ。

空虚かと思われていたところに本当はこんなにもキラキラした思い出が詰まっていたことに今更気づいたのだった。

シェリルと同じだ。

こんな風に友人を"部屋"に招いたことなどなかった。

いつも出て行ってひっかきまわして、あちこち傷つけて。でも。

その傷の一つ一つがこんなにも輝いていることに...気づいていなかったことに。深い失望を覚えた。

もっと大事にすれば良かった――なんて。

今更ただの感傷だ。

感傷だ...

アルトは茶色のテディベアを抱えあげる。小さな子供を高い高いするみたいに、互いの目の高さを合わせて見つめる。

感傷だなんて...考えたこともなかった、"お前たちに"出会うまでは。

胸中呟くと、どこかから皮肉な口調のミシェルの声が聞こえる――そんな顔、似合わないぜ? 姫

ばかやろう 姫なんて呼ぶな

苦虫を噛むようにアルトが膨れると、ミシェルはまた笑う

そうだよお姫様、お前はねぇ...そう言う風にいっつもカリカリキィキィしてなきゃいけないの

そう笑いながらミシェルは初夏の若葉の色みたいな眸をウィンクさせる。

何言ってんだ オレよりちょっと成績が良くて女にモテるからって

ミシェルの余裕こそが、自分を苛立たせるのだ。何でこんなに開きがあるのか、それが判らずもがいた。

でもちょっと待てよ、オレは。

オレはなんでこんな会話しか思い出せないんだ?

もっともっと大事なことを聞かなきゃいけなかったんじゃないのか?

もっと...たくさん、聞いてもらわなきゃ――

ほらほらそこ! いつまでも辛気臭い顔してんじゃないよ姫

ミシェルはいつものように眼を細め口角を上げた、美人が台無しだ と。

お前さん、まだ間に合うじゃないか



まだ、間に合う?



白いテディベアは愛らしくて淑やかなイメージ。

あの魅惑なボディを持つゼントランの女戦士を思い浮かべるには聊かギャップがありすぎた。

いや...。

そんなことはない。

戦いの場のクランはけして後を見ぬ雄々しさがあるが、シェリルのことを明かしてくれたあの時の少女は恋心に翻弄された後のしなやかな美しさがあった。

それは一つの恋の終わり。

彼女は激しく燃える心を経て、今こそ最愛の男とともにある境地に至ったのかもしれない。

冷めてさらに打たれる真剣の刃のように、強靭に。

ああ...なんて。

愚かで寂しいのだろう? 人間なんて。



失くしてからその大切さに気づく

去ってから愛しさに気づく

心に人を宿してから、孤独に気づく







ふと、小鳥が囀りのようにか細く流れる旋律がアルトの耳朶を打つ。

曳かれるようにその声を追ってアルトは、当たり前のようにシェリルの寝室へ。



だんだんとこの部屋に馴染んできたのかもしれない。

リビングに飾られた花々も、壁に掛けられた絵画も。

自ら買い物に出ようとか、何かを欲して繰り出すこともさほどにはなく、シェリルにとって生活は歌だけだった。

それが少しずつ。

チャリティーライブに差し入れて貰ったものや、ファンから貰ったというぬいぐるみとか。

なんだかこのフロンティアにやってきた当初とは少し違う印象を受ける持ち物が増えてきた。

お金持ちの後援者から貰う高価なアクセサリーや華美な衣服ではなく、ほんの小さな花束。

ファンの手ずから編まれたレースの壁掛け。

肌触りのよい素材の抱き枕やシェリルの名が刺しゅうされたタオル。

シェリルは何も欲しがらなかった。

集まってきたものを喜んで受け取ってきただけ。

シェリルの歌う歌を受け取った者たちが、シェリルに還したいものを持ち寄っただけなのだ。

壁紙と同系の柔らかな光を放つピンク色の寝具の上にシェリルは緑の髪の人形を横たえた。

そして歌う。

幼い児に歌う母の子守唄のように。

シェリルの歌はいつもの力強い彼女自身の往き方のようではなく、優しく温かくたゆたうように部屋に響いた。

寂しい時に。泣きたい夜に。シェリルはこうして歌ってきたのかもしれない。

アルト自身が空を眺めて自らを慰めた同じ長さの時を、ずっと歌っていたのかもしれない。

こんなひとを愛しいと言ったら嗤われるだろか?

傷の舐め合いだと蔑まれるだろうか?

同情なら要らないと忌避されるだろうか?

流されるように、ただ雪崩れ込むかのようにしか、感じて貰えないだろうか?

「......」

別段気配を消したわけではない。

アルトがベッドに程近くなるまでシェリルは歌っていた。

そして歌が終ると、目を上げるでなく語る「ランカちゃんのこと、好きだったの」

仲良くなれそうな気がしたの。

ナナセとも、ルカ君とも。

「ミシェルとクランにはとってもお世話になっちゃった」

顔を上げてにっこり微笑むと小さく舌を出す。

もっともっと、仲良くなって楽しい時間が過ごせると思ったの。

女の子同士の友達なんかいなかったから、もっとたくさんおしゃべりして「ファッションのこととか、男の子のこととかね」

流行りの音楽に映画の話。授業のノート写させてもらって、テストの点数の心配をしたり。

「その合間にアルトとデートして。

 ちょっとランカちゃんをやきもきさせて」

ナナセにお弁当の作り方教えてもらって、「アルトとのデートに持ってくの」

クランに家庭教師をしてもらって「女子大生だもの! いろんなことたくさん教えて貰っちゃうの」

ふふふ...なんてね、「何"おセンチ"になってるのかしら」とシェリルは立ち上がる。

「ごめん、待たせちゃって」

彼女の言葉が終る前に、アルトはツイと手を出した。

ふんわりと尻もちをつくかたちでシェリルはベッドに再び座りこんだ。

アルトは彼女をベッドに留めて、枕もとに置かれたランカ人形を取り上げるとダイニングからそのまま持ってきた"ミシェル"と一緒にベッドサイドのソファに置いた。

「アルト?」

意外と冷静な仕種でアルトは、シェリルをベッドに押し倒す。

どこも傷めないように、細心の注意を払って、アルトはシェリルを抱き締めた。

頬を併せて探る様に口づける。何度も何度も、啄ばむように彼女の唇を優しく塞いだ。

そうしていつか彼女のほうが根負けし、彼を受け入れる――

ほんの最近まで頑なな少年だったのに...数度触れ合っただけで彼は本能のままに相手を解す方法を覚えたのかもしれない。

数か月前までは、演技以外に異性と触れ合うなどなかったはずだし...

あの映画ロケ地で交わした軽いおふざけなど、彼女のほうがリードするくらいだったのに。

とはいえ、...シェリル自身、そんなに男女の機微を知っているわけではない。

あれは、あのキスはただ単に演者早乙女有人を焚きつけたかっただけだったはずだ。

そのうち彼女のほうが息を切らせて、彼の身体を微力ながら押し返した「あ ると...」

どちらのものとも判らない露が彼女の唇を濡らし、薄紅の花びらがまるで戦慄く様に震えた。

「どうしたの、いったい...?」

アルトは顔を上げずに、シェリルの絹糸のような髪に鼻先を突っ込んだ。

身じろぎもせずに暫くそうしたあと、シェリルの耳介をその鼻先で辿る。

あ、あ...「アル...ト...ぉ」

心ならずギュッと目を瞑った。ベッドと自分の背中の間を探る腕も、耳朶に掛かる吐息も、どうにも心地悪いものだった。

......違う。

背筋が強張ってしまって......声が出ない...

背中を弄っていた手が自然腰に落ち、その瞬間彼女は全身を縮みこませて硬直させる。

この硬直が解けたら。彼女にはその時が怖かった。だから肩を足を、全身で自身を内へ内へと...

その気配でアルトの手が逡巡するように止まる。

互いに互いが小さく震えているのが判って。

けれどシェリルには何で自分がこんな風に震えているのか、また男がなぜ震えているのか判らなかった。

とにかく胸を落ち着かせようと目を閉じたままゆっくりと呼吸を繰り返す。

自分の上に突っ伏しているアルトも。潜める様に静かに深呼吸する。

「アルト、」どうしたの?

少しだけアルトのほうへ顔を傾けたシェリルの耳に、彼は掠れた吐息で囁いた 頼みが...ある――

アルトの唇が直接耳朶に振動を伝える様に、その言葉は伝えられた「      」

「ぇ......」

思いがけない言葉を聞いて、シェリルはその眸を大きく瞠目させた。蒼い眸が白い天井の色を滲ませるように明るく光を孕む。

アルトは一つ息を呑んだ。また震えが来る。

いつもはこんな風にシェリルを拘束したりしたことのないアルトが...

そう考えると、何ともこの重みが愛しく思えるのが不思議だと彼女は次の言葉を言うのが躊躇われる。

現金なものだ。

求められている時は突き放さなければならない。

欲しい言葉ではないのに、言われれば惜しくなる。

許したいのに許してはいけない...。

矛盾のループが彼女を躊躇させる。けれど。

「ダメよ、判るでしょ?」

当り前じゃないの、という語尾が震えないように少しだけ力が必要だった。

すると彼女の耳元からゆっくり温い体温が遠ざかる。

徐に顔を擡げた男の黒髪が彼女の眸の白い光を遮る。替わりに彼は湖水の水面に映っているような、自らの頼りなげな影を見た。

けれど彼女が見上げた彼の眸はいつもの子どものような頼りなさが影をひそめている。まるで闇に燃える炎のようなアンバー。

「ダメかどうかを聞いてるんじゃない、オレは」

お前がイヤかどうかを聞いてるんだと、静かな口調に有無を言わさぬ厳しさを添えて彼は言った「お前が、厭だというなら...諦める。けど」

「厭? "ダメ"といったら"嫌"なんじゃないの?」

「違うだろ!? ダメってのはお前以外の理由があることだ。

 厭と言われればそれは...お前がオレをその...生理的に受け付けないとか――そういう...」

「なんでそんな、複雑な話になるのよ!? 

 私が、アルトを...生理的に? 受け付けないって、なに言ってるの」

そんなこと、あるわけないじゃない。

「私はシェリルよ!? 嫌いなものは嫌い。

 なんで嫌いな人に、こんな風にされて大人しくしていられるって言うのよ。相手があんただからじゃない」

「だったら!」

「だからダメ!」

鼻先をすり合わせるほどに近い距離で、二人の話は並行する。

「ダメよアルト。

 私は...病気なのよ」

虚ろに、彼女は呟いた。自分自身にも、言い聞かせる――V型感染症は...

判ってるよそんなこと、と彼は返した「そんなこと、知ってて言ってるんだ。

 V型感染症が感染者の体液や血液からしかうつらないって。今更だ、そんなこと」

だからどうだって言うんだ、「オレが欲しいと思うもの、望んじゃいけないのかよ!?」

「何言ってんのよ!? ふざけないでよっ。

 欲しいって何なのよ!? 最初の言葉が"好きだ"じゃなくて"ヤらせろ"ってどういうこと?」

眦に泪を溜めて睨むシェリルの言葉に、アルトは思わず上半身を引き揚げた「ヤ...ら、なんて言ってない!」

きりきりと歯噛みして、男の割にきめ細かく色白の頬をパッと染めた「その...」

抱かせてくれと言ったんだ...

同じことよ「いーーーだ!」

絶世の美女が顔を顰め、いたずらを仕掛けられた幼女のようにそっぽ向く。

その様子にアルトは少し身体をずらした。

横たわるシェリルの隣に座り、ほんの聞こえるか否か程度の声でごめんと言った。

「ごめん。

 悪かった、...オレ」

アルトは顔を背けてベッドに伏せるシェリルの髪を撫でる。が、その手をすぐに引っ込めると彼は、今度は彼自身身体を背けた。

オレは、さ...重い口を開く「オレ...本当に、自分勝手だ」

お前を利用しようとした

「......?」

シェリルはゆっくりと顔を覆う手を除けて寝返ると、アルトの背を見る。

利用、て...なに? 問い掛けたいのに声が出ない。

「アルト?」

シェリルの問いかけに、アルトはますます顔を背けた。

「アルト...話して?

正直に話しなさい。そうしたら...。

 だって私は、あんたが芯から不実な人だと思ったことなんて一度もないの。

 こんな風にされたって...私は」

アルトが好き と――消え入りそうな声。

すると彼は弾かれたように背を聳やかし、背けたままの顔を上げた。

そしてほんのわずかな間を置いてまるで嘲笑するように乾いた笑い声を上げた「お前、それ...買いかぶりだよ」

「オレはもっとずるい。きっとお前だって軽蔑する」

オレは――ふふ、と悲しそうに笑う「オレは、...お前が欲しいんじゃない。

 自分を見てみたかったんだ、女を抱く自分を見てみたかった」

感じてみたかった、と。

「は? 何それ...

ただの"筆おろし"ってこと?」

この言葉に彼はまた頬を染めた。嘲笑うなよと気色ばむ。

「バカね。

尚更だめよ。当たり前じゃない」

それとも...シェリルは不意に気色を変えた。ぎくしゃくと首を回して彼を見る。

「それとも私のこと......侮ってるの。

私が病気だから!

感染症だから...」

どうせ長くないから、後腐れないとでも?

「違うっっ!」

「でも考えてみれば変よ」

シェリルは仰向けのまま目を覆う「変じゃない? 健康な男の子が――」

こんな風に何の見返りもないまま、女の我儘を聞き続けるなんてと口にしながら、彼女は泣きだしそうだった。

「見返り?」聞き返して憮然と彼女を見る、彼は怒気を荒げた「そんなもの、最初から考えてるわけないだろ?」

でもそれなら尚更「ダメ」だ。

「経験してみたいだけなら、風俗にでも行って」

「そんなつもりない。

そういうことじゃないんだ」

怒ったように応じながらシェリルは、何かどこかこの変に噛み合わない会話に本心から腹を立てることが出来なかった。

感じてみたかった...なんて

けれどなんとなく合点が行く気がする。だって...

いつかビデオクリップで見たあの妖艶な「桜姫」を演じる少年が、自分の本性を知らないのはむしろ不思議な気がする。

あんな風に恋に身を焦がすことも憾みも何も知らずに、彼はあの美しい女を演じたのだ。

シェリル自身、そんなコトをしてみたことがある。覚えがある。

恋の歌を歌いたいがために身近にいた男を充てに"恋を演じてみた"ことがある。

あの時は本気で好きになれそうだったのに、その作戦は成功しなかった。

こんな風に、もう何もかも失ってしまってから心を縛られてしまったことに人間の悲しい性を感じた。

アルトもきっと――そりゃ一度くらい経験したいのかもしれない。そんな風に思うと笑いしか出ないけど。

「役者は、いろんな経験しといたほうがいいんじゃないの?」

あげたくてもあげられない、ともすれば簡単に崩れてしまいそうなそんな均衡を保ち続けるのは、今のシェリルには難しい。

だったら他にはけ口を見つけてもらうしかないではないか。

「馬鹿だなお前。

 みんなお前とオレが付き合ってるの、知ってるんだぜ。

 天下のシェリル・ノームの恋人が風俗通いなんて、そんなの許せんのかよ?」

そして苛立ったように立ち上がると「悪かったよ。言っちゃいけないことを言った、けど...

 オレはお前とのこと、そんな判り切ったような"ギブ&テイク"だけで考えたことなんて一度もない」

本当は自分のほうこそ知らずこの少女に貰っているのだと、彼は口を噤んだ。

静かに奥歯を一度噛みしめる、「ごめん、帰る」

「明日から新統合軍の宿舎に入る」

しばらく来られないからと、彼は部屋を出た。



口をへの字に食い縛り、シェリルはそれでもこみ上げる泪を抑えられない。

なんだかヘンな喧嘩だ。

何を唐突にこんな話題になったのか、もう彼女には覚えがない。

望まれたことが嬉しかったような。

でもそれを拒否しなければならなかったことが情けなかったような。

そう思ってもでも尚更、好きでもないのに望まれたなんてそんなことにも腹が立って。

でも本当は雪崩れ込みたいくらい自分のほうが彼を繋ぎ止めたかった。

でも...

でも、でもでも。

ずっとこの言葉の繰り返しだ。

もともとこんなふうに甘えられるような立場じゃなかったことに思い当たる。

ただのギャラクシーの芸能人で、彼とは何の関係もない。

ただの同級生で、いつも助けて貰いっ放しで。

弱った自分を押しつけて彼を縛るなんて「出来っこない」

頭を上げて起き上がり、部屋を見回すとソファに置かれた緑の髪の小さな人形が視界を横切った「ランカ...」

そうだった...ランカ。

あいつはあの娘のことが好きだったはず。

今はフロンティアを離れているけれど、でもきっと。あいつはランカを連れ戻す。

そうだとしたら、やっぱり自分の判断は間違っていないのだろう。

自分の寂しさや弱さを彼に押し付けるのは...もうやめにしなければ。

と。

あの雨の中彷徨った街を思い出す。

目の前に大きくランカの笑顔があって。フラッシュに輝いていた、彼女が。

魅惑のディーバと呼ばれたあの娘が。そして。

足元には雨に濡れ、街ゆく人たちに踏みつけられてボロボロになった"私"のポスター。

っくくくと。自分の歯が擦れる音がする。

そして少し緊張を解くとふふふと知らず笑いがこみ上げた、大丈夫。

大丈夫、あの夜よりも私は強くなっているはず。

もう名声にも妖精の称号にも、拘らなくても歌える自分がいるはずだと。

「あ、お菓子...」

現実に戻ったシェリルは溜息のように呟き泪を拭いながら立ち上がると、衣服を整えてアルトを追った。







はぁ、...シェリルのベッドルームから出、ダイニングまで早足に戻るとアルトは頭を抱えて蹲る。

......

頭を抱えたまま淡い紅の絨毯を暫く眺めた。

考えなくても虫がよすぎる話だ。自分の気持ちとか都合とか、そんなものばかりを押しつけて傷つけた。

このまま帰ってしまったら、次に会うときどんな顔をして会えばいいというのか。

というか。

これでもし......考えながら、彼は脳裏に浮かんだ事物を振り払うように頭を振った。

そして部屋の中央にあるテーブルの上を片づけ始める。

五組の客用湯呑と漆塗りの茶卓。

五枚の銘々皿と半端な白い皿。

白い陶器のポットにはもう冷たくなってしまった白湯。

真中に置かれた和菓子の箱。

一つ一つを目で追って、アルトは相好を崩した。本当に飯事だ。

日本茶の煎れ方なぞ知るわけがない。見よう見まねでここまでしたのだ。

白いテディベアに向って「まったくなぁ」と呆れたように微笑みかけた。

皆こんな幼女のようなシェリルを知らない。

ステージの上で軍服風の衣装に鞭を鳴らし、傲慢なほど挑発的な眸で観衆を魅了する。

その表情だけでなく小悪魔の如く魅惑の姿態を曝し、世の男たちを興奮の坩堝へと誘い込む。

その手連手管を鑑みれば、このようにテディベアを抱いて子守唄を歌う彼女を誰が想像するだろう?

ギャップに弱いとは思わない。

けれどアルトにとってあの舞台で細いチューブトップに真珠のような汗の粒を纏った彼女は蹴散らしたいほどのスターだったが、自分の胸元に涙する彼女のその細い肩を抱いたときグイと何かを鷲掴みにされたような心地がしたのだ。

その痛みと胸苦しさは彼にとって未体験のものだった。

何もかも掴み取ってきた彼女が転げ落ちる様に何もかも失くして、たった一人傷ついた心と弱り切った身体で訴えた、自分には歌しか残っていないと。

その絞り出すような魂(いのち)の叫びを、アルトが突き放せるわけはない。

同情だろうか?

いや...

「......」



部屋の入口に佇む気配に目を遣るとシェリルの姿が。

当たり前だが、内心ほっとしたアルトである。

こちらへ向かってくる彼女の眦にはいまだ泪の跡があった。

「お菓子、持って帰って」

宿舎の人たちと食べてと言う。

表情のあちこちが強張って旨く笑えないらしい。

自分の前でなければもっと堂々と開き直って笑ったり怒ったり、出来るのだろうと思うとアルトは切ない。

「いや、お前が食えよ。

 "誰か"がお前に食わせたくて持ってきたんだ」

箱の中を二人で覗き込む。

紅い練り切りは西王母

抹茶色の練り切りと餡を合わせた物は松重

白い薯蕷饅頭には淡紅色に梅が焼き印されている。

それらの生菓子の間にさまざまな干菓子が鏤められた箱は、ここだけ日本の正月のような意匠だ。

「全部お祝いのときのお菓子だよ。

 お前が元気になる様にって願ってる人がいるってことだ」

公にされていないシェリルの病気を知っている人物は限られている。

この暦でいえば夏の終りの今頃に花びら餅だなんて。

白い求肥に透ける薄紅の花びらの色が、少女の柔らかな髪の色に似ているような気がする。

アルトの言葉にシェリルは暫くその菓子たちを見ていたが、結果やはり首を横に振った「やっぱり持って行って」

皆で一緒に食べたかったの、小さな子どもが言う駄々のように呟いた。

皆のことを思い浮かべながら、一つ一つにラベルを張ってしまった。

「今更一人きりで食べられないわ」

だからと顔を上げると、アルトは困惑気味に、それでも表情を和らげた「一緒に食うか」

一つづつでも一緒に食べて。

この次"誰か"に会ったとき、シェリルが笑っていればいいと思った。

シェリルを食卓につかせ、アルトはキッチンへ。

湯の用意をしながら、棚から煎茶のティーバッグを出して二人分の茶を淹れる。

アルトは奇麗な仕種で箸を取り、シェリルの皿に求肥を乗せた。箱に一緒に入っていた黒文字を添える。

隣の椅子に腰かけると彼は彼女の顔を覗き込む。そして小さく嘆息。

泣き腫らしてしまった頬に手を伸ばして、軽く頬を撫でた「シェリル」

アルトの声に顔を上げた彼女の唇に、彼は小さな和三盆を押しこんだ。

いきなりのことに目を丸くして口を閉じる彼女が可愛い。

そして彼女はやっと表情を綻ばせる「甘...。美味しい」

彼は彼女の肩を抱き寄せてその唇を吸った。そして離れるとふと笑う。

その何か余裕というか、安心したような顔にシェリルはむっとして口を尖らせた。

頬が紅い。可愛い。

「食えよ」

「"どうぞ"って言うんでしょ?」

膨れたままの彼女は黒文字を手にとって皿の求肥に突き刺す。が、その弾力と粘りのせいで旨く切れない。

花びら餅はとくにその真ん中を通っている煮ごぼうがなかなか切れないことがあり、アルトも幼いころ初釜の席で窮した覚えがある。

彼は彼女の手に自分の手を添えて、上手に小さく一口分の求肥を切り取った。

「黒文字の、」と彼が説明し始めると、彼女は黒文字? と聞き返す。

楊枝のことだ。

「この、角をごぼうに当てる」と...切り易い。

矢三郎兄さんに小さい頃教わった。

「あ、ほんとだ」と次の一口を彼女は自力で切った。

「アルトは食べないの?」

「貰うよ」

アルトは軽く合掌すると「ご相伴」と言って湯呑を手に取った。



甘いお菓子と温かいお茶



子どものころからこんな風なものに触れる機会が多かったのだろう。アルトはこんな席でも上品な様子で菓子を平らげた。

彼の横で、その様子を眺めながらシェリルはまた自分の眼頭が痛くなるのを感じた。

すっと啜りあげるとアルトがまた心配そうな眸をくれた。

「涙腺が壊れちゃったかな...。」言いながらいやいやする様に首を振る「違うの、なんだか私...幸せなんだなって」

物心ついたときには孤児だったから、ずっと誰かに注目されている自分が一番幸せなんだと思っていた。

ずっと女王様でいることが幸せに繋がるんだと思ってた。

ギャラクシーでも、どこの移民船団でも。自分の歌が掛かり、ホログラムが街中をキラキラ飾った。

「それは...本当はただの独りよがりで。

 こんな風に一緒に美味しいものを食べて、あったかいお茶を飲んで」

幸せなんてもっと身近にあるものなのだと。

「シェリル」

あんまり泣くなよ。「オレ、お前がしおらしいと言いたいことの半分も言えなくなるんだ」

演技者というのは何とも皮肉に、相手の気持ちが想像出来過ぎてしまうらしい。

「お前が悲しんでいる、お前が心細く思ってる、痛みを隠してるんじゃないかと思う、そういう何か苦しい思いがどうしても流れ込んできて。

 そこへ何か言おうとしても、何もかもただの慰めとか、同情とか。

 旨く伝えることが出来ないんだ。何かその...そう言った落ち込みに漬け込んでるみたいな気がしてきて」

言葉を切った彼は自分の前髪を無造作に掻き上げる「で、オレはオレで」

実家のこともちゃんとしてない。

友(ミシェル)を戦乱で亡くし、ランカはバジュラと去ってしまった。

そして「お前の感染症」

オズマに問い詰められても返答すら出来ない自分に...

「お前にかけてやれる言葉が見つからない。

 自分の曖昧な部分や、あやふやな感情や。鬱屈したこととか、もがいても抜け出せない...何かを」

自分のほうこそ、その穴を埋めるためにお前にしがみ付いてるんじゃないかって。

「でも、だからと言って...もしかして明日の出撃で死ぬかも知れないそんなときに、お前と離れたくない――」

じゃぁそれが「恋」か? と問われれば?

「愛」なのか、そう問われれば...「こんな痛み切った状態でこの気持ちをそんな"言葉"に変えたくないんだ」

今この気持ちを恋愛にしてしまえば、結局その傷が癒えたとき同じ気持ちでいられるのかどうか判らない。

それが怖くてたまらないのに「なのに、オレはお前を離したくない、一人で泣かせておくなんて出来ない」

だから

「だから?」

「いや、ごめん」

アルトは視線を逸らすと和菓子の箱に蓋をした。

「さっき向こうの部屋で言ったことも、真実(ほんとう)だ。

 自分を知っておきたい。出来れば...」嘲笑...調子いいな、オレ。

出来れば"繋がって"しまって。

シェリル自身にも自分にも呪縛をかけてしまったらどうだろう?

互いがお互いに甘えることも、縋ってしまうことも、何もかも同じに考えられればいいのに。

いつかそれが喜びや慈しみに変わることはないのだろか?

「って、浅はかだな」

結局甘えるのだ、どうにもならない。

「アルト」

ごめんね...「私のほうが浅はかだわ」ギブ&テイクだなんて、本当にそんな言葉で片付かない。

「そんな風に考えるものなの?」

「いや、判らん...オレが突っ走ってたんじゃないか?」

「アルトのことが厭なんじゃないの。当り前だけど」

アルトとなら嬉しいんじゃないかなと思う。

「でもね、アルト」

あのね、私――シェリルは逃れる様にアルトに背を向けた、私...そう言ったまま彼女は言葉を失った。

「シェリル?」

彼女は席を立つ。リビングを抜けて、街を望む窓際へ。

「私、」声が不安そうに震える。いや、肩が震えている。

そうかと思うといきなり顔を上げて「V型感染症のこと。知ってるでしょ?」と問う。

もともとはバジュラの体液や血液から感染すると説明されている。

窓の外を眺めながら彼女は話を続けた。

「私、ここへ来るまでバジュラなんて見たことも聞いたこともなかったの。なのに」

みるみる彼女の顔は青ざめて、それはけして外の景色が夕暮れ迫っているからではないと、その再び震える肩が表している。

「どうしてこんな病気になったのか。

 どこで、...ど、どんなふうに、感染したのか」

彼女は両手で顔を覆う。

「ギャラクシーのあのスラムでなにがあったのか」

がたんと音を立ててアルトが立ち上がる、「シェリル!」

「だって! 体液って何?

 血液って?

 私、どうしてこんな病気になったの!?」

震える少女は疑問の答えを充てにしてはいなかった。

誰にも判らないその不明瞭な時間(とき)をどうにか探ろうとして、それとともに恐れも感じていて、その記憶を紐解くことが出来ないのだ。

誰かを好きになるたび。

触れられそうになるたび。


頭を過る不明の影が、かえって彼女に虚勢を張らせていたのも事実の一部である。

けれど今まではそんなことまで踏み込むことはなく居られた。"感染症"という細菌の存在を忘れかけていたからである。

命の期限という現実が。

そしてその体調の悪化が、彼女の心に重く圧し掛かっているのであった。

そう考えたら、アルト...「ダメよ、アル...」

シェリルの言葉はアルトの腕に遮られた。

「もういいんだそんなこと」彼女の耳元で彼は言った、もう哀しいことは忘れてしまえと彼女の肩を抱いた。

「どうでもいい、そんなこと。もう充分悲しんだじゃないか」

お前一人でこれからどうするんだ?

どうやったら少しでもお前を其処から救ってやれるんだ?

歌しか持たずに孤独きりになろうとするお前に、「してやれることってないのかよ?」



――私のほうこそ...何にも返して上げられないのに?




「だからなにも要らないって――」

言っただろ と。

そんな風に割り切れない、「オレのほうこそ、何もしてやれないんだ」

一緒にいるだけで。

見守るだけで、シェリルの本当の苦しみを変わってやることは出来ない。

「一緒に"感じる"だけで、本当は何もしてやれないんだ」

シェリルはアルトの胸に縋って泣いた。



窓の外が一日の終わりに近づく......


















薄暗く暮れるベッドルームで、シェリルの白いドレスが青白く光った。

闇の中で褪めた色の髪から紅紫の石が覗き、不思議な輝きを放つ。

彼女の胸元のリボンに手をかけて、それまで黙りこくっていたアルトが口を開いた「あのな」

先に言っておく、と前置きをする。

そして彼女の眸を覗き込むと彼は言った「オレは棄てばちになってるわけじゃない。

 パイロットだから死ぬのが怖くないとも言わない。

 これでオレが同じ感染症になったとしても、結局は病気はそれぞれの苦しみでしかない」

変わってやることはできないんだ。

「命を粗末にしようとも思わない。オレは生きたい、...ただ、...

 最期の最後まで大事に、大事に――燃やし尽くしたい。

 生きるって言うのはそう言うことだ。

 お前が、教えてくれたんだろ?」



私には歌しかない、それだけが証だと。



「オレは飛ぶ。

 このフロンティアを、...お前を守るために」

今はそれだけで――




















夢の中で少女が笑った。

暖かな色彩のちりばめられた部屋に、白いドレスの少女が。

緑の髪の人形を抱え、子守唄を歌う――

 いとしいあなたの みみもとに...





    夜空の星に 祈りをこめて















                    《了》

















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注;記事トップの日付は改ざん、
というよりもうこの企画自体6月1日のモンと思ってください。
でも本当は9月入ってからの企画です。
posted by peke× at 00:00| Comment(0) | title | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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